pH応答性かつ高い蛍光を示すRNAアプタマーの開発に成功 ―細胞内のpH測定やRNAの観察への展開に期待―
pH応答性かつ高い蛍光を示すRNAアプタマーの開発に成功
―細胞内のpH測定やRNAの観察への展開に期待―
国立大学法人新万博体育_万博体育官网-【官方授权牌照】 大学院工学府生命工学専攻博士課程 上野 絹子氏(研究当時)、同大学院工学研究院生命機能科学部門の塚越 かおり助教(研究当時、現?東京理科大学准教授)、池袋 一典卓越教授らの研究グループは、ローマ大学との国際共同研究において、蛍光性のRNAアプタマー(標的分子に対して特異的に結合するRNA分子)であるBaby Spinachアプタマーの末端にpHに応じて形を変えるRNA三重鎖を導入することで、pH応答性を持ち、従来より十数倍高い蛍光強度を有する新規RNAアプタマー、Bright Baby Spinachの開発に成功しました。Bright Baby Spinachは、細胞内pHの測定や、生細胞内におけるRNAのリアルタイムでの観察など、様々な用途に応用できると期待されます。
本研究成果は、Nucleic Acid Research(6月24日付)に掲載されました。
論文タイトル:Bright and pH-sensitive Baby Spinach aptamer with RNA triplex fusion
URL:https://academic.oup.com/nar/article/53/11/gkaf151/8166788?login=true
背景
RNAは細胞内で多様な機能を担う核酸分子であり、転写?翻訳のみならず、遺伝子サイレンシング、翻訳制御、細胞内シグナル伝達などにも関与することが知られています。また、機能性RNAは細胞内環境(特にpH)に応じて構造変化を起こしその機能を発揮するため、RNAを用いて細胞内pHを追跡することは細胞内メカニズムの解析に有用です。
現在、細胞内pHを測定する方法として、磁気共鳴分光法や陽電子放射断層撮影法(PET)などが用いられていますが、これらは高精度ながら装置が高価であり、リアルタイムのモニタリングには適していません。一方で、蛍光pH指示薬(例:2',7'-ビス(カルボキシエチル)-5,6-カルボキシフルオレセイン)を用いた測定法は簡便であるものの、細胞内への取り込み効率が低く、長期観察には向いていません。そこで近年、核酸を利用したpHセンシング技術が注目されています。特に、DNAやRNAの三重鎖構造はpH感受性が高く、細胞内pHモニタリングのためのプローブとして有望です。しかし、細胞内からシグナルを取得する方法が確立しておらず、かつ適用可能なpHの範囲が狭い、等の問題があり、未だ実用化には至っておりません。従って、これらの課題を解決できるセンシング技術の開発が急務の課題でした。
研究体制
国立大学法人新万博体育_万博体育官网-【官方授权牌照】 大学院工学府生命工学専攻博士課程 上野 絹子氏(研究当時)、同大学院工学研究院生命機能科学部門の塚越 かおり助教(研究当時、現?東京理科大学准教授)、池袋 一典卓越教授らの研究グループの研究グループと、ローマ大学のリッチ フランシスコ教授らの研究グループとの国際共同研究により行われました。
研究成果
特定の低分子と結合し蛍光性を示すRNAアプタマーが知られています。RNA分子は標的細胞内で連続的に合成することができるため、高い蛍光強度とpH応答性を備えたRNAアプタマーが開発できれば、リアルタイムな細胞内pHモニタリングが可能です。そこで本研究では、蛍光性RNAアプタマーであるBaby Spinachアプタマーの末端にpH変化に応じて構造を変える三重鎖形成塩基配列を導入することで、細胞内pHモニタリングのシグナル分子として機能する新規蛍光性RNAアプタマーの開発に挑戦しました(図1)。新規蛍光性RNAアプタマーであるBright Baby Spinachは、従来のBaby Spinachアプタマーの両末端に三重鎖を形成する塩基配列を導入し開発しました(図1)。Bright Baby Spinachは3,5-ジフルオロ-4-ヒドロキシベンジリデンイミダゾリノン(DFHBI)と結合することで、従来のDFHBI と結合したBaby Spinachアプタマーと比較して、十数倍高い蛍光強度を示しました。そして、Bright Baby SpinachはpH7.0をピークとした高感度なpH応答性も有していました。ヒト由来の細胞株であるHela細胞内にこのBright Baby Spinachの遺伝子を導入して転写させ、その蛍光強度を評価した結果、Baby Spinachアプタマーよりも12倍強い蛍光強度を示し、また細胞内のpH条件を変化させると、Bright Baby SpinachはpH7?9の範囲で、pHに応じて蛍光強度を変化させました。これはpH応答性をもつ蛍光性RNAアプタマーの開発として世界で最初の報告となります。
今後の展開
本研究で、pH応答性を有する蛍光性RNAアプタマーが初めて開発されました。これまでにもSpinachアプタマー以外にBroccoliアプタマーなど、複数の蛍光性RNAアプタマーが報告されているため、それらにも同様に三重鎖を導入すれば蛍光強度の向上やpH応答性が見込めるかもしれません。三重鎖を形成する塩基のプロトン化により三重鎖構造が惹起されていると推定され、これらを形成するそれぞれの塩基と三重鎖構造形成の相関を検討すれば、目的のpH領域で構造変化を引き起こすpHナノスイッチアプタマーの開発もできると考えています。そのため、今後はさらにBright Baby Spinachの三重鎖形成の最適な条件検討を重ねることで、高感度なライブセルイメージングを始め、様々な用途への応用が期待されます。

◆研究に関する問い合わせ◆
新万博体育_万博体育官网-【官方授权牌照】大学院工学研究院
生命機能科学部門 教授
池袋 一典(いけぶくろ かずのり)
TEL:042-388-7030
E-mail:ikebu(ここに@をいれてください)cc.wxanhx.com
プレスリリース(PDF:312.7KB)